МАСТЕР И МАРГАРИТА

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

巨匠とマルガリータ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 1-5)

巨匠とマルガリータミハイル・ブルガーコフ河出書房新社
ブルガーコフを語るなら、まずこれを読んどけって?

焼けつくほどの異常な太陽に照らされた春のモスクワに、悪魔ヴォランドの一味が降臨し、作家協会議長ベルリオーズは彼の予告通りに首を切断される。やがて、町のアパートに棲みついた悪魔の面々は、不可思議な力を発揮してモスクワ中を恐怖に陥れていく。黒魔術のショー、しゃべる猫、偽のルーブル紙幣、裸の魔女、悪魔の大舞踏会。4日間の混乱ののち、多くの痕跡は炎に呑みこまれ、そして灰の中から〈巨匠〉の物語が奇跡のように蘇る……。SF、ミステリ、コミック、演劇、さまざまなジャンルの魅力が混淆するシュールでリアルな大長編。ローリング・ストーンズ「悪魔を憐れむ歌」にインスピレーションを与え、20世紀最高のロシア語文学と評される究極の奇想小説、全面改訳決定版!

『運命の卵』*1も『犬の心臓』*2も、当時のロシア情勢の風刺・批判であることは解説に頼らずとも見て取れるんだけど、それがわかってても普通のSFとして面白い。本作も、同様に巨匠(文学==ブルガーコフ)の苦境や政治批判が綴られているものの、過去の作品以上になんでもアリの変テコな奇想小説。
いくつもの要素が積み重なった構成なんだけど、どちらが先なのかわからなくなる入れ子構造のピラトの挿話が効果的に収束していく。
題名になってる二人の主人公よりも、やはり四人組の悪魔が強烈。特にベゲモートはアタゴオルですよ(笑)。しかも、悪魔たちは単純な「悪」ではなく、神の裏面のような存在として描かれている。がんじがらめになったロシア社会は、もはや人智を超えた存在でないと破壊できず、ブルガーコフも彼らの力を借りないと救われない状況なんだよね。まぁ、そんなことを考えずとも、魔術によって混乱していくモスクワの様子は楽しい。ちょっと『ナイト・ウォッチ*3に通ずるものもあるかなぁ。
現実を破壊されながらも、結局官僚的に修復されるモスクワ。しかし、良心に反しながら国家に尽くしたある官僚の救済、同時に文学の力を示すラストは、それまでの極彩色の混沌とは対照的な静謐さ。
ロシア文学は小難しそう……と敬遠している方に、是非オススメ。