VALENTINES

ヴァレンタインズ (エクス・リブリス)

ヴァレンタインズ (エクス・リブリス)

『ヴァレンタインズ』オラフ・オラフソン〈白水社EX LIBRIS〉

「一月」から「十二月」まで、夫婦や恋人たちの愛と絆にひびが入る瞬間を鋭くとらえた12篇。研ぎ澄まされた感覚、洗練されたユーモアが端正な文章の行間に漂う。アイスランド出身の実力派による、珠玉の第一短篇集

そんなこと言わなくても(or やらなくても、or 行かなくても)という、ほんの些細なことで亀裂が入る男女関係を描いた短篇集。
その展開が自然でかつ丁寧なので、わざとらしさがなく、多くを語らずとも主人公の「やっちゃった」瞬間が、肌に触れられるかのように感じられる。
また、視点が男性なので、彼らの言動が理解できちゃう。余計なこと言っちゃうよね(笑)
主人公と舞台は全て、アイスランドおよびアイスランド出身で、アメリカの描写が「都会は悪い人が多いから地元にいろ」的なのね(笑)


お気に入りは、
・「二月」
やり直すために田舎にやってきた夫婦。
その帰り、妻は、夫の元浮気相手の家を見せてくれれば、すべてうまく行くと言うが……


・「三月」
奮発してコロラドのゲレンデにやってきたスキー好きの夫婦。
しかし、夫は初日に足を痛めてしまう。
一人残った彼は、そり遊びをする父子と知り合いになるが……
ラストの気まずさがもぉ……


・「五月」
長年連れ添った妻から、レズビアンだから離婚を告げられた夫。
家や品物の処分に彼女はサバサバしており……
この作品が一番劇的かな?
こういう時に、男のほうがセンチメンタルで、そのフラストレーションもわかるなぁ。


・「六月」
妻に先立たれた男。
ある日、妻によく似た女性に出会い、彼女と秘密のデートをするようになる。
しかし、ひょんなことから、彼を快く思っていない娘婿にそれを知られてしまい……


・「八月」
カナリア諸島に行きたかったが、妻に押されてスロベニア旅行になった男。
彼は若いときにスロベニアに留学しており、そこで捨てた女性がいた。
ホテルのウェイトレスにその面影があり……
わざわざやらなくてもいいのに感はこれが一番か。


・「九月」
口ばかりの男と流されるように結婚したが、見捨てるような気がして別れられない女。
耳障りの良い投資ばかり話し、お客の機嫌取りのオークションを落札したのを期に決断する。
一人でパリに滞在し、そこで料理人と親しくなるが……