LITTLE BROTHER

リトル・ブラザー

リトル・ブラザー

『リトル・ブラザー』コリイ・ドクトロウ早川書房
震災→エンタメ自粛風潮→上杉氏キラキラ降板ってタイミングで読みたくなかったなぁ……

サンフランシスコに住む17歳のマーカス・ヤロウは、コンピューターやゲームに強い、ごくふつうの高校生。じつは、w1n5t0n――ウィンストンのハンドルネームをもつハッカーでもあった。校内に設置された歩行認識カメラをだましたり、居丈高な生徒指導主任の個人情報を調べたりするのは、お手のもの。だが、ある日、授業中に親友のダリルといっしょに学校を抜けだし、他の高校の仲間たちと遊んでいた最中に、世界が永遠に変わってしまう事件が起こった。サンフランシスコ湾で、大規模な爆弾テロがおこなわれたのだ。警報が鳴りひびくなか、避難しようとしていたマーカスたちは、テロリストの疑いをかけられ、国土安全保障省に拘束されてしまった。最初は尋問に抵抗していたマーカスだったが、やがて肉体と精神の両方をいためつける厳しい拷問をうけるはめに……  ネット仲間やガールフレンドとともに、強大な国家権力に対して果敢な戦いをくりひろげる高校生マーカスの活躍を描く、キャンベル記念賞受賞の全米ベストセラー。

題名からわかるように、監視社会となったサンフランシスコに対して、ハッカー少年が果敢な戦いを挑む物語。破滅に対して、一介のコンピュータオタクが立ち向かうという点では「シスアドが世界を支配するとき」にちょっと似てるかな。
爆弾テロが契機となって、その犯人を捕まえるという大義名分の前に、プライバシーと人権を無視した監視が強化されていくさまが恐ろしく、いつの間にかテロのことは二の次となり、市民の監視そのものが目的となっていく。あらゆる登場人物がスパイにも見えてきて、最後まで休まらない。
主人公の一人称なんで、一人で国家に立ち向かうマーカスに感情移入しちゃうけど、自分がその立場だったらどうだろう? その代弁者が彼の父親。リベラルだったはずの彼が、テロリストを捕まえるためなら多少の不便はしょうがないじゃないかと受け入れてしまう(自分に類が及ぶまでは)。この、自分が当事者にならない限り、一部に戦わせる民衆の姿勢が真に恐ろしいんだよね。
それとは別に、マーカスが革命細胞を作り、自由を求めて闘っていく様子は、現代の『月は無慈悲な夜の女王*1ともいえて楽しい。


YAノベルなのでリーダビリティもよく、オススメ。
評判がイマイチだったけど『マジック・キングダムで落ちぶれて』*2も実は好き。ウッフィーとか、今の方が飲み込みやすいよね。


ところで、これはマンデーンSFにはならないの? 『エア』*3よりよっぽど現実的だし、面白いんだけど。