冷たい熱帯魚

『冷たい熱帯魚』鑑賞。
90年代前半の埼玉愛犬家連続殺人事件に材をとった作品。
題名からわかるように、映画は犬ではなく高級魚を扱っている。金儲けのために希少生物のブリーディングに投資する行為自体、個人的には歪だと思っているので、その時点で不穏な気配が漂っている。


なんといっても、でんでん演じる村田が強烈。
ぜんぜん違うんだけど、例えるなら『ノー・カントリー』*1のアントン・シガー。
シガーが天災や運命のような避けられない「死」の具現化なら、村田は対面したくない「破滅」の姿。
しかも、どこにでもいそうな調子のいいおっちゃんとして現れるから、本性に気づけず、それを避けるのは困難。
さらに気づいたときには、もう破滅からは逃れられない。
毒入りの飴と鞭を使って、投資者が騙されていく模様はひじょうに恐ろしい。本人は自発的に決めていると思っているけど、村田に関わった瞬間から詰将棋のように破滅に向かわさている。
そして、金を奪えば、投資者は「透明」にされてしまうのだ。この描写も非常に激しく、唐揚げ好きにはオススメのシーン(笑)。一人の人間を消しちゃうって、もう虚無感以外何者でもないね。
人間の姿をした狂気である村田だけど、彼の台詞だけ抜き出すと正論が多く、それが悪役としての魅力に深みを増している。


一方、村田の共犯者となってしまう社本を演じるのは吹越満。いかにも気が弱そうな小市民風情。
村田に関わってしまったのだから、彼が平穏無事に過ごせるわけはないんだけど、仮にハッピーエンドを迎えられたとしても、彼に幸せな家庭が待っていないことは最初から明示されている。
要するに、この映画には壊れた人間しか出てこないのだ。
村田の要求に、恐怖で耐えてきた社本がついに反撃! というのはパターンだけど、この映画はそこからが凄い。狂いながら正論を吐く村田のように、社本も気弱な見た目の中に欲と暴力と狂気を宿している。そして、ギョッとしながらも納得のラスト。


観終わってから、実際の事件を調べると、かなり映画は現実に即していて、それもホントだったのか、と薄ら寒くなる。
万人向けじゃないけど、オススメ。