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馬を盗みに (エクス・リブリス)

馬を盗みに (エクス・リブリス)

『馬を盗みに』ペール・ペッテルソン 〈白水社EX LIBRIS

1999年11月、ノルウェー東部の湖のほとりにある小さな家。老境にさしかかった「わたし」、トロンド・サンデルは三年前に妻をなくし、森のそばで暮らすという長年の夢をかなえるべくここにやってきた。しかしある日、顔見知り程度の隣人ラーシュが、実は少年時代の友人の弟だということに気づく。それをきっかけに、長い間封印して、いた15歳の夏の思い出が鮮明によみがえってゆく。1948年7月、少年の「わたし」は、父と二人でスウェーデンとの国境近くの小さな村へやってくる。不思議なことに、仲良しのヨンは「わたし」の父とすれ違っても挨拶もしない。ある朝、ヨンは「馬を盗みに行こう」と誘いに来る。「盗む」といっても本当に盗むわけではなく、こっそり放牧場に忍び込んで地主の馬を乗り回すという他愛もない遊びだった。「わたし」が家に戻ったあと、その前日に、ヨンが不注意から弾をこめたままにしておいた銃で、弟のラーシュが双子のオッドを誤って射殺していたことが発覚する。オッドの葬儀の後、ヨンは姿を消してしまう。

なんと言っても、自然の重い静寂感が印象的。
現在の雪深い生活と少年期の森。その厚みが、秘密を飲み込み、覆い隠し、外に漏らさない。しかし、人がそこへ行けば、何かを思い出す。
森も雪も一人では生きて行けないけど、逃れることは出来ない人生のようなもの。瑞々しい少年期の森での日々だけど、彼は徐々にあたりに漂うかすかな緊張感に気づき、人生を学んで成長する。一方で、老境の生活でも、過去と現在は断絶しているわけではなく、人生は続いていることを気付かされる。
父の秘められた過去を回想していくという作りは、個人的には『遥かな町へ*1と似た感触。
尊敬する父に、何があったのかは、はっきりとは描かれていない。主人公は無意識ながらに、でも必死に父を今の生活に繋ぎとめようとするが、父の意識は戦時中から離れられず、「馬を盗みに」という言葉が彼の中では決定的だったのでは、と思う。
もっといろいろ思うことあるけど、上手くまとめられないし、何がほのめかされているかは、人それぞれ読み解くべきかな。