IN HIS IMAGE -THE CHRIST CLONE TRILOGY-

キリストのクローン/新生 上 (創元推理文庫)

キリストのクローン/新生 上 (創元推理文庫)

キリストのクローン/新生 下 (創元推理文庫)

キリストのクローン/新生 下 (創元推理文庫)

『キリストのクローン―新生―』ジェイムズ・ボーセニュー〈創元推理文庫F552-03、04〉
今までにも似たような題名の作品はちょろちょろ見かけたし、キワモノっぽいなぁ、と思いつつ着手。

キリストの遺骸を包んだと伝えられる、トリノの聖骸布。一般公開された聖骸布から、アメリカ人科学調査団の教授が密かに採取した人間の真皮細胞は生きていた。教授はそこから画期的な抗体をつくりだすとともに、救世主のクローンをも誕生させる。クリストファーと名づけられた彼は、長じて不思議な能力を発現させた。一方、イスラエルではテロが激化し、さらに世界中で突如として数千万の人間が死亡する、謎の〈大惨事〉が勃発した……。現代にキリストが現れるとしたらどのようであるのか、そしてこの世界はどうなるのかを主題に挑む三部作!
全世界を覆った〈大惨事〉の悪夢ののち、デッカーは14歳のクリストファーと行動をともにすることになった。そして仕事で訪れた先の国連ビルで、同行したクリストファーの姿を見たとたんその正体に気づいた老人がいた。「彼だ。わたしにはわかる」――元国連事務総長補佐は新時代の指導者の出現を信じるグループのメンバーだったのだ。一方、緊張の高まる世界では、アラブ諸国イスラエルに侵攻し、ついにはロシアが動いた。世界はどうなる? 前代未聞のスペクタクル。

感想の前に注意。買うまで気づかなかったんだけど、三部作なんで、完結もの以外は読みたくないという方は、終わるまで待ちましょう。


オーメン3』*1で見たかったのはこれだよ! という読書感(立場真逆だけど)
ダミアンがどうやって権力の中枢に食い込んでいったかのように、キリストのクローンとして誕生したものの、権力とは無縁の家庭で育ったクリストファーがどのようにして力を得ていくのかが、抜群のリーダビリティを持って描かれている。
ひじょうにスピード感があり、作中の時間も1部だけで30年間が過ぎる。その間に様々な出来事が起き、謎が残されたままの大事件もあるんだけど、気にせず読み進めてしまった。決して薄いわけでなく、2000年の歴史があるキリスト教の再スタートが圧縮されている。
発端こそはオカルト的だけど、展開はむしろ国際謀略ものとして普通に面白い。ただ、世界を股にかける物語だから、いつもならあまり目を通さない登場人物一覧は付けて欲しかったなぁ。あと、何度か出てくるトンデモ論的解説に必要性があまり……
黙示録的にいくつもの惨事に見舞われる世界。クリストファーはそれを収めようとしているのか、それを利用しようとしているのか、混沌とした世界の中ではなかなか見極められない。権力を手にしていく様子も奇跡を起こしてではなく、政治のパワーゲーム。しかし、それは超自然的な力の存在を前提としたパワーゲーム。また終盤にはクリストファーに次ぐパワーも介入して、さらなる混沌が。
クリストファー、彼を支える人々、彼と相対する存在、それぞれの目的はまるで見えず、続刊が楽しみ。