EIFELHEIM

異星人の郷 上 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 上 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 下 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

異星人の郷 下 (創元SF文庫) (創元SF文庫)

『異星人の郷』マイクル・F・フリン〈創元SF文庫699−01、02〉
2007年ヒューゴ賞候補作!

1348年8月のある晩、ドイツ、シュヴァルツヴァルトの小さな村を異変が襲った。青白い光と瘴気。小屋が吹き飛び、火事が起きた。数日後、領主マンフレートの命で密猟者の探索にでかけたディートリヒ神父らは、森で異形の者たちと出会う。灰色の肌。鼻も耳もない顔。バッタを思わせる細長い体。悪魔か、それとも恐ろしい病か。だが、怪我を負い、壊れた乗り物を修理しようとするこの“クレンク人”たちと村人の間に、やがて奇妙な交流が生まれる。史実をふまえ濃密な描写で、人知れず果たされたファースト・コンタクトを描くヒューゴー賞最終候補作。
領主は“クレンク人”の特殊な力を利用しようとし、神父は彼らに神の存在を教える。遠い故郷に帰るという彼らの願いはかなうのか――。現代のフィラデルフィアで、統計歴史学者のトムは、14世紀に忽然と消え、その後、再定住されることのなかった村、アイフェルハイムの謎を追っていた。同居する宇宙物理学者のシャロンは光速変動理論を調べるうちに、ひとつの宇宙論に到達する。二人がついに見出した驚くべき光景とは……。黒死病の影が忍び寄る中世の生活と、異なる文明をもつ者たちが相互に影響する日々を克明に描き、感動を呼ぶ重厚な傑作。

エイリアンたちの物語。SF的字義どおり地球人と異星人であると同時に、性差、時代、学問、宗派、身分、自分以外のあらゆる対象は異邦人。その間をつなぐ力が、違いを認めること、相手を受け入れること。その当たり前のコミュニケーションがクレンク人と中世ヨーロッパ人の交流の感動を呼び、さらにはラストへとつながっていく。
中世ヨーロッパと聞くと、圧政と宗教裁判のイメージだけど、現実はそこまで激烈でなかったらしい。主人公のディートリヒ神父は頑固なキリスト教者であると同時に才能ある自然学者でもあり、さらに隠された過去も持つ、ある種万能の人。現代から見れば、異星人も中世ヨーロッパ人もエイリアンで、その彼が全ての通訳となって、村の生活、クレンク人の様子、両者の交わりを豊かに伝えてくれる。また、異星人とキリスト教で頭に浮かぶのがブリッシュの『悪魔の星』*1があるけど、こちらはよりキリスト教でありつつ、愛に溢れている。
この中世パートだけで十分に面白く(実際メインだし)、現代パートは倒叙的な再確認の楽しみくらいしかないものの、ラストの身震いするほどのSF的高揚感! 冒頭から示されているクレンク人の運命と、ペスト禍がもたらしたもの、全てがここに収束する。正直、中世パートは異星人が出てくるもののSF感は薄い。ところが、ラストを飾る現代での2度目のファーストコンタクト! 絶対的な証拠を突きつけ、それまでの常識が崩れるであろう瞬間! これを求めて、SFを読むんだよなぁ。


他にどんなの書いてる人かと思ったら、『天使墜落』*2(傑作!)とか、「夜明け、夕焼け、大地の色」*3の人なのね。
既訳も含めてオススメ。