El Mapa del Tiempo

時の地図 上 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1)

時の地図 上 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-1)

時の地図 下 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)

時の地図 下 (ハヤカワ文庫 NV ハ 30-2)

『時の地図』フェリクス・J・パルマ〈ハヤカワNV〉

1896年ロンドン。恋人を切り裂きジャックに惨殺され、大富豪の息子アンドリューは、失意の底にあった。彼は、西暦2000年へのタイムトラベル・ツアーを催す時間旅行社を訪ねた。時間をさかのぼり、切り裂きジャックから恋人を救おうというのだ。だが旅行社は過去には行けず、彼は小説『タイム・マシン』を発表したH・G・ウエルズの力を借りることに。一方、上流階級の娘クレアは、2000年へのタイムトラベルに参加するが……
クレアはタイムトラベルで会った未来の男と、奇妙な恋に落ちていった。やがて、謎の武器で胸に大きな穴を開けられた死体が発見される。犯人の調査を開始したウエルズは、現場の壁に、書き上げたばかりで誰も知らないはずの小説『透明人間』の冒頭が記されていることを知り、愕然とする。そして、さらなる殺人事件が起き、意外な犯人とウエルズ自身の想像を絶する秘密が明らかに! 愛と冒険と仕掛けに満ちた驚愕の小説。

ドラキュラ紀元*1『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』*2聖典と崇めるものにとっては、このあらすじは警戒せざるを得ない。
『ジャバウォッキー』*3という傑作があるものの、『神秘結社アルカーヌム』*4のガッカリは記憶に新しい。
そんなわけで、この手の作品はそそられながらも敬遠気味。


騙された!
あらすじに!


確かに、上述したような作品の愛好者ほど騙される。
ターミネーターで、スチームパンクで、ジャングルクルーズで、ロマンスで、やっぱりSF……
なんと言うか、材料は馴染み深いんだけど、調理が変わっていて、あまり記憶にない舌触りに。ウエルズを縦軸として毛色の違う三つのエピソードを繋いでいる構成は、飴村行作品に似てるかも。読書感は『風の影』*5に近い気がしたのは、スペインだからかな。
切り裂きジャックに殺された恋人を助けようとする第一部は、分岐するパラレルワールドもの(?)。
未来の将軍に恋した女性を描く第二部は「愛の手紙」*6系なんだけど、主観的タイムトラベルロマンス(?)。
この一部二部のパターンがクセモノで、初っ端から19世紀の未来旅行会社でガードを崩され、騙されまいと身構えているうちにまたやられ、これによって、三部の展開がどちらなのかと、最後の最後まで疑わずにはいられない。物語の最初から地味に改変歴史なんだけど、読んでいるうちに気にならなくなり、でもやっぱりそれは瑣末な問題ではない。
三つのエピソードはそれぞれ楽しめるんだけど、肝である第三部がちょっとなめらかさが足りないかなぁ。騙される快感がそこで減じちゃってると思う。
でも、間違いなく変な小説なので、あらすじで足踏している人ほどオススメ。