LOOKING FOR JAKE

ジェイクをさがして (ハヤカワ文庫SF)

ジェイクをさがして (ハヤカワ文庫SF)

『ジェイクをさがして』チャイナ・ミエヴィル〈ハヤカワSF1762〉
最近プッシュされているミエヴィルの短編集。
半分以上既読だなぁ、と思ったら、今のところこれで全部なのね。


・「ジェイクをさがして」Looking for Jake
何かが起こり、異形の街と化したロンドン。
目を離した一瞬で姿を消した友人を捜すが……
異形の街そのものが主人公と言えるような作品がホントに上手い。
確かに、バイアクヘーとかゴーントっぽく、クトゥルーものと解釈する向きもあるようだけど、個人的には「鏡」のアナザーストーリーという印象。
また『サイレントヒル』的な変転もざわざわしてなかなかいい。


・「基礎」Foundaion
男は家屋を調査し、完璧にひび割れや年数などを言い当てることができた。
しかし、彼には常にあるものに悩まされていた……


・「ボールルーム」The Ball Room
エマ・バーチャム、マックス・シェイファーとの共作
ショッピングセンターで人気のボールルーム。
しかし、不可解な事故が起き、警備員も異様なものを目撃する……
普通のホラー。ラストのトラブルシューターがちょっとイイ。


・「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」Report of Certain Events in London
作家チャイナ・ミエヴィルのもとに届いた郵便物。
小説のプロットかと思い途中まで読んだところで、間違って配送されたものとわかる。
しかし、そこに書かれていたのは、突如として現れる路地についての報告書だった。
かなり想像の埒外にある物語。
タイポグラフィで遊んでいるらしく、英語に堪能なら、原著に当たったほうが楽しそう。
改めて読むと、『紙葉の家』*1に似てるね。


・「使い魔」Familiar
魔法使いに川に捨てられた使い魔。
しかし、使い魔はあらゆるものを吸収し、体を作りながら、町に向かっていく。
動物の破片が機械に有機的に結合されていて、生理的嫌悪感を催すと同時に、
「ガンバ」「ウォーターシップタウン」などのような小動物もののいとおしさも感じる奇妙な作品。
ラストは全てをエネルギーにしちゃうわけ?


・「ある医学百科事典の一項目」Entry Taken from a Medical Encyclopedia
脳を変形させ、意味不明の演説させるバスカード病に関するレポート。
架空の病気アンソロジーに載った作品。
他のも読んでみたいなぁ。


・「細部に宿るもの」Details
毎週、近所のミセス・ミラーに食事を運ぶ少年。
彼女は部屋から出ず、扉もほとんど開けない。
その理由は?
クトゥルー用語は使わず、サイコパス的展開、しかし、知識があるものには、それがなんのか見えてくる。
ある種、クトゥルー神話に登場する知の探索者を追体験できる。


・「仲介者」Go Between
買ったものの中に、何者からかのメッセージが入っており、それに従う男。
いったい、それが何に関わっているのかは不明。
最後の指令が届くが、それに逆らうことを決意し……


・「もうひとつの空」Different Skies
古道具屋で気になった窓を買う老人。
それ取りつけるが、そこからは見知らぬ光景が……


・「飢餓の終わり」An End to Hunger
天才的なプログラマーの友人。
彼は、偽善的なサイトをハッキングして攻撃を繰り返すが……
この作品と「仲介者」の陰謀論的な後味の悪さはいいなぁ。
主人公のアナーキズムは、ミエヴィルの政治信条を反映しているのかな。


・「あの季節がやってきた」‘tis the Season
クリスマスのあらゆる事象の権利を企業が独占し、金を払って許可を得なければならない未来。
僕はクリスマス・パーティの券が当たり、娘を連れて行くことにしたが……


・「ジャック」Jack
『ペルディード・ストリート・ステーション』*2に出てくるお祈りジャックのスピンオフ短篇。
グロテスクな世界に、ブラックなオチ。非常に好み。
ある意味、仮面ライダーだよね(笑)


「鏡」The Tain
イマーゴと呼ばれる存在との戦争で廃墟と化したロンドン。
ショールはある計画を持ち、ロンドンを彷徨っていた……
イマーゴやヴァンパイアの正体が秀逸で、その姿が見えてきたときはなかなか興奮。


・「前線へ向かう道」On the Way to the Front
ミエヴィル原作の漫画。
よくわからない……


SFともファンタジーともホラーともつかず、結末も不明瞭で落ち着かない読後感。他の異色・奇想系ともちょっと味わいが違うんだよね。なんとなく、ざらついた写真というか。
みんないいんだけど、個人的には「ジェイクをさがして」「ロンドンにおける“ある出来事”の報告」「ある医学百科事典の一項目」「細部に宿るもの」「仲介者」「飢餓の終わり」「ジャック」あたりが……いや、やはりみんなオススメ。