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贋作 (1970年)

贋作 (1970年)

『贋作』クリフォード・アーヴィング〈早川書房
1960年代、美術界を震撼させた贋作画家エルミア・ド・ホーリィの告白を元にしたノンフィクション。『オーソン・ウェルズのフェイク』*1として映画化もされている。ちなみに、エルミアの贋作は日本の国会でも問題に上がったことがある。


21年間に書いた贋作は1000点以上。様々な作風の、しかも、ピカソルノアールモディリアーニマチスなどなど、素人でも知ってる超有名画家を描いていていることから、先日読んだ『贋作者』*2のトム・キーティングより腕は上か。
ただ、決定的に違うのは、キーティングが美術界に対する知恵比べとして贋作ゲームを仕掛けていたのとは対照的に、エルミアは完全に金のためで、全く悪いことをしている自覚がない。しかも、もう贋作はやめようと思う度に、贅沢はやめられずに贋作に戻るという繰り返し。キーティングが職人的なのに比べて、こちらは享楽的な人生に見える。
しかし、どこか憎めないのが、彼の楽天的な性格もさることながら、常に搾取されているものという事実。二次大戦で財産をナチに奪われ、贋作も安く買われ、破滅の原因ともなる二人の仲間にも最後まで搾り取られ続ける。故郷も国籍も失った彼が欲したのは自分の家。それさえも……
天才贋作家の話にもかかわらず、実は絵画の印象が結構弱い。先にも書いたように享楽的。この物語は、愛と欲望と金を巡る三角関係(ホモの)なんだよね。だから、『贋作者』のように贋作テクニックを求めると肩すかし食らうけど、三角関係ものとしては楽しめる。三人ともホントにダメ(笑)。この関係の崩壊が、彼らの贋作マーケットの崩壊につながる。


また、かなり恐怖を感じる物語でもある。
ここまで露出の高い有名作品が無数に世に出回ってるというのが恐ろしい。真作なんてホントにあるの? 画商は金儲けのことしか考えていない、というのはトム・キーティングも訴えているとおりだけど、彼らの目が節穴というのは簡単、しかし、そんな画商たちが目を鍛えてきた対象全てが贋作なのでは? と思ったり。


『贋作者』ともども、『ギャラリーフェイク』好きにはオススメ。