TREE OF SMOKE

煙の樹 (エクス・リブリス)

煙の樹 (エクス・リブリス)

『煙の樹』デニス・ジョンソン白水社EX LIBRIS〉

1963年、ケネディ大統領の暗殺がラジオで報じられるシーンから物語は始まる。日本軍に捕虜になった経験をもち、戦争が人生のすべての元アメリカ軍大佐フランシス・サンズとその甥の「スキップ」ことCIAのウィリアム・サンズが関わる情報作戦を軸とする。兵士として従軍するヒューストン兄弟、児童支援の看護婦キャシー・ジョーンズ、ベトナム人の情報員グエン・ハオやチュン・タンなど、サンズに惹きつけられ、翻弄され、戦争に憑かれていく登場人物たち……。作戦の全体像が見えないまま、物語はゆるやかに、うねるように進んでいく。中盤の「テトニ攻勢」の戦闘シーンをはじめ、荒々しい迫力をもつ描写、生き生きとした会話、凄みのある内面描写が、随所にちりばめられる。フランシス・サンズが密かに進める、〈煙の樹〉と呼ばれる情報作戦とは何なのか? かれらが長き旅路の果てにたどり着いた、衝撃の結末とは?

やっと読了……
ページ数(600P超)もさることながら、内容も噛み砕きにくく、歯ごたえありすぎて味がよくわかりませんでした。
ジーザス・サン』*1のようなダメ人間たちのバラッドを期待していると、そこにあるのは重厚な戦場の叙事詩。元アメリカ軍大佐フランシス・サンズと彼が計画する〈煙の樹〉作戦に絡めとられていくさまざまな人々を描いた群像劇。
〈煙の樹〉の名のとおり、捉えどころがなく、キャラクターも読者も翻弄されていく。激しい戦闘シーンはあまり印象になく、むしろ、泥沼化していくベトナム戦争の無意味、不条理、倦怠が、長い叙述に疲れる読書感にフィードバックされる。それらが煙のように周囲に漂い、気付いた時にはすっかり煙に覆われ、そこから抜け出したとしても、大きな傷を負い、または狂気に侵されていく。わかりやすいのが、ヒューストン弟。兄の人殺しの話に驚いていたのに、戦場で彼は比べもにならないほど残酷になる。また、情報を操っていたはずのスキップやストームも、真実を見失っていく。
狂騒に疲れ果てた彼らに与えられる救済もまた、決して穏やかなものではない。途中に出てくる、影のパパの物語が、ベトナム戦争における最善の救済なのかなぁ。
正直、話はよく呑み込めなかったんだけど、キャラクターたちのダメで口汚い会話はやはりいいなぁ。
「ずっとお前のこと短小野郎だと思ってた」