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古書の来歴

古書の来歴

『古書の来歴』ジェラルディン・ブルックスランダムハウス講談社
うう〜ん、ゾクゾクする。

100年ものあいだ行方が知れなかった稀覯本サラエボ・ハガダー」が発見された。連絡を受けた古書鑑定家にハンナは、すぐさまサラエボに向かった。ハガダーは、ユダヤ教の「過越しの祭り」で使われる、ヘブライ語で祈りや詩篇が書かれた書である。今回発見されたサラエボ・ハガダーは、実在する最古のハダガーとも言われており、500年前、中世スペインで作られたと伝えられていた。また、ハガダーとしてはめずらしく、美しく彩色された細密画が多数描かれていることでも知られていた。それが1894年に存在を確認されたのを最後に紛争で行方知れずになっていたのだ。鑑定を行なったハンナは、羊皮紙のあいだに蝶の羽の欠片が挟まっていることに気づく。それを皮切りに、ハガダーは封印してきた歴史をひも解きはじめ……。

ちょっと予想していた内容とは違ったんだけど、ヒストリカル・ミステリとし十二分に楽しめた。
修復の過程でハンナが見つけた謎。蝶の羽、今はない留め金の痕跡、ワインの浸み、塩の結晶、白い毛……古書は500年もの間、どのような旅をしてきたのか? そして、ハガダーとしては珍しい細密画を描かれた理由は?
無論、ハンナはそのサンプルから推測と想像しかできない。しかし、我らはその旅を遡ることが出来る。
そこに現れるのは、ユダヤ迫害の歴史、命を賭けて本を守ろうとする精神、帰属する場所の発見……
戦火・破壊に追われながらも、運と人々の献身によって現代まで生き延びた一冊の書物。それを通じて、500年の時を隔てた二人の女性が自分の居場所を見つけ、邂逅する一瞬は感動的。
ここに出てくるサラエボ・ハガダーは実在していて、ネットでその画像を見ながら読むのも楽しい。
また『古書修復の愉しみ』*1『西洋製本図鑑』*2あたりを副読本とすると何をやっているのかイメージしやすいかも。