MAGIC’S PAWN
- 作者: マーセデス・ラッキー,細美瑤子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/11/20
- メディア: 文庫
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〈最後の魔法使者〉三部作開始。
アシュケヴロン家の跡取り息子ヴァニエルは、美貌を鼻に掛けた軟弱者として、一族から馬鹿にされていた。唯一の理解者だった姉も遠方に行ってしまい、ますます孤立してしまう。父は、〈使者〉である伯母サヴィルに教育してもらおうと、ヘイヴンに追いやる。ヴァニエルは、そこでも馴染めず、〈吟遊詩人〉になりたいという希望も絶たれてしまう。しかし、サヴィルの愛弟子タイレンデルと愛し合うようになり、本当の自分を表すようになる。父にばれないよう、自分たちの関係を隠す二人。そんな中、タイレンデルの兄が暗殺され、彼は魔法による復讐を果たすが……
『伝説の森』*1に幽霊として登場した伝説の〈魔法使者〉ヴァニエルの生涯を描いたシリーズ第1作。とは言っても、前作が二年前なんで、ほとんど覚えていない……
前半は、某シンジくんのように「誰も僕をわかってくれない」とイジイジ。後半は、強大な魔法使いとして覚醒するも、やはり「誰も僕をわかってくれない」とイジイジ。こっちはイライラ(笑)
この作者、群像劇と空間的広がりがあまり上手くないと思うんだよね。だから、〈ヴァルデマールの風〉三部作のように国同士の戦いなのに、一対一でちまちまやってるようにしか見えず、迫力もメリハリもない。その反面、一人のキャラクターを描き込むと、こぢんまりした味が活きてきて、狭い世界をめいっぱいに使い、物語の密度が高まる。
周りから疎まれ、自分からもうち解けられない中、最愛の人を見つけるが、心が破壊されるほどの悲劇に。望んでもいなかった絶大な力を手に入れながらも身も心も周囲も傷つける。そして、力には責任が伴うことを知り、新たな世界と人生へと成長していく。
ヴァニエルの復活と再生だけに焦点が当てられているので、軸がぶれてしまうような不満はない。感触は『女王の矢』*2に近いかな。また、魔法で戦うラストも、今までになくファンタジー的で悪くない。少なくとも、シリーズの中では面白い方じゃないかなぁ。思ってたよりもBL臭弱いし(笑)
この後、彼がどうやって伝説の魔法使者となっていくのか、そして予知夢の正体は? この調子なら楽しみ。
あとがきを読んだ限りでは、〈最後の魔法使者〉と〈ヴァルデマールの嵐〉は並行して訳されるのかな? 中央公論社も続いて欲しいんだけどなぁ。