HERE LIES ARTHUR

アーサー王ここに眠る (創元ブックランド)

アーサー王ここに眠る (創元ブックランド)

アーサー王ここに眠る』フィリップ・リーヴ〈東京創元社
『移動都市』*1、『ラークライト』*2のリーヴによるYAファンタジー

紀元五百年ごろのブリテン島。戦士の集団に村を襲われ、命からがら逃げ出した少女グウィナは、ミルディンと名乗る魔法使いのような男に拾われる。彼は吟遊詩人で、言葉巧みに物語を紡ぎ、粗野なアーサーを偉大な王として人々に見せていた。グウィナはアーサー王伝説が形作られていく様を目撃していく。

物語の力を描いたファンタジーであり、ファンタジーが紡ぎ出されていく様子を描いた物語。
個人的な印象としては、『ヴィンランド・サガ』と感触が似てたんだけど、現代まで余韻が伝わってくる物語世界としては、こちらの方が上かなぁ。
山賊に毛が生えた程度のアーサーに対して、グウィナをはじめ、人々は好感を持っていない。しかし、ひとたび、ミルディンが着色するや、全てが幻想に彩られた冒険譚として上書きされていく。また、語り部であるミルディンやグウィナもまた、別の語り部たちによって、物語に組み込まれていくことを我々は知っている。この読者の印象さえも操る物語化が見事で、多少なりともアーサー王伝説を知っているのなら、後にエピソードとして織り込まれていく出来事を目撃し、心揺さぶられる。
物語の力を利用しながら、物語自体は信じていないミルディン。人々は物語の中に、見たいものを投影しているのだが、そんな彼こそが、自分の物語を最も信じたかった人物。物語の力と真実の間で、彼の最後の語りが感動的。


今まで訳されている作品の中では、これが一番完成度が高い。
オススメ。