酒國

酒国―特捜検事丁鈎児の冒険

酒国―特捜検事丁鈎児の冒険

『酒国―特捜検事丁鈎児の冒険―』莫言岩波書店

酒国市の特権階級が、幼児の人肉料理を食べているという情報を得た敏腕の特捜検事丁鈎児は潜入捜査に。しかし、退廃都市の酒と女に溺れ、彼は転落していく……。という小説を執筆中の莫言。そんな彼を尊敬する、酒国市醸造大学の作家志望の学生との往復書簡。そして、彼が送ってくる奇妙な小説。その三つが絡み合い……

アタリ。
以前読んだ短篇集*1よりも、こっちの方が好きだなぁ。


莫言マジックリアリズム的刑事もの、学生が送ってくる現実とも創作ともつかない小説、その両者をつなぐ手紙だけが現実なんだけど、その中で妙に浮いている。全てが二面性を持ち、現実と幻想、莫言と管謨業、学生とアマチュア作家、特捜検事とダメ男、運転手と姦婦、レストランのオーナーと怪盗、尊敬される政治家と人肉食、嬰児料理と細工料理……その全てが、どちらが主体なのか、尻尾をくわえた蛇のようなメタ構造になっていて、読んでるうちに主人公のように酔ってくる。
また、小説の中だけの出来事となってるけど、人肉料理のための村、ロバ料理の町、小人だけが働くレストランって、中国ならありそうって思っちゃうんだよね(笑)作者が意図しているのかどうかわからないけど、そのリアルに対する認識の齟齬が、ある意味マジックリアリズム的。