燃える天使

燃える天使 (角川文庫)

燃える天使 (角川文庫)

『燃える天使』柴田元幸・編〈角川文庫ア13-1〉
僕の恋、僕の傘』の文庫落ち……なんだけど、半分近くが新収録。

 収録作品
・「僕の恋、僕の傘」……ジョン・マクガハン
・「床屋の話」……V・S・プリチェット
・「愛の跡」……フィリップ・マッキャン
・「ブロードムアの少年時代」……パトリック・マグラア
・「世の習い」……ヴァレリー・マーティン
・「ケイティの話一九五〇年十月」……シェイマス・ディーン
・「太平洋の岸辺で」……マーク・ヘルプリン
・「猫女」……スチュアート・ダイベック
・「メリーゴーラウンド」……ジャック・プラスキー
・「影製造産業に関する報告」……ピーター・ケアリー
・「亀の哀しみ アキレスの回想録」……ジョージ・フラー
・「燃える天使 謎めいた目」……モアシル・スクリアル
・「サンタクロース殺人犯」……スペンサー・ホルスト

正直、ちょっと趣味ではなかったんだけど、後半に好みの作品がかたまっていて、それなりに満足。とはいえ、他の作品も意外と記憶に残っている。


お気に入りは、
・「床屋の話」……V・S・プリチェット
 電車を待つ間、床屋に入った男。
 先に髪を刈っていたのは幼馴染みだという。
 席に着くと、彼がどういう男か話し始める……
 これは会話通りの内容? それともミステリ?
 個人的には「沈黙と叫び」*1みたいに味わったんだけど。


・「ブロードムアの少年時代」……パトリック・マグラア
 犯罪性精神病専門のブロードムア精神病院の院長を父に持った男の回想。
 マグラアの父親が本当にブロードムアの院長で、これは自伝。
 『博士と狂人』*2に出てきた精神病院みたいだと思ったら、本当にそうでした。


・「猫女」……スチュアート・ダイベック
 近所から子猫を預かり、それを洗濯機で溺死させている老婆。
 狂った孫と暮らしているが、だんだんと手に負えなくなり、周りの人間も猫の処分を頼まなくなる。
 そのうち、町は野良猫があふれてきて……
 近所のキチガイ婆さんが、町全体の狂気のストッパーになっていた、逆割れ窓理論のような作品(笑)
 崩壊の過程、ビジュアル、後味の悪さ、と非の打ち所がない。
 柴田アンソロジーのレギュラー、ダイベック
 「僕たちはしなかった」*3「パラツキー・マン」*4とよかったけど、個人的にはこれはベストかなぁ。


・「メリーゴーラウンド」……ジャック・プラスキー
 町にやってきた移動メリーゴーラウンド。
 子どもたちが乗るが、故障で止まってしまう。
 そこで父親たちが、手で回し始めるが……
 狂騒感が素晴らしい。


・「影製造産業に関する報告」……ピーター・ケアリー
 大ヒット商品である、様々な理想や絶望を見せてくれる影。
 かく言う私も影依存者だ。
 「アメリカン・ドリームズ」*5も好きだったんだけど、長篇も読んでみようかなぁ。


・「燃える天使 謎めいた目」……モアシル・スクリアル
 蝋燭をつけてしばらくすると、小さな天使が見えてくる。
 天使たちは火に引き寄せられ、燃え尽きてしまう……
 よくわからないけど、なんか気持ち悪い。


・「サンタクロース殺人犯」……スペンサー・ホルスト
 ある年、サンタクロースが何者かに殺され続ける。
 誰もサンタをやらなくなり、一人の女性がサンタの扮装をするが、なぜか彼女は殺されない。
 そのうち、女性たちが競ってサンタクロースをやるようになり……
 「風が吹けば……」的な展開に、全く脈絡のないラストで吹いた。