The Pear-Shaped Man and other stories

洋梨形の男 (奇想コレクション)

洋梨形の男 (奇想コレクション)

洋梨型の男』ジョージ・R・R・マーティン〈河出書房新社 奇想コレクション
マーティンのホラー寄り作品を集めた日本オリジナル短篇集。


 収録作品
・「モンキー療法」The Monkey Treatment
 食べることが大好きな肥満の男。
 しかし、彼は実は太っていることが嫌いで、何度も密かにダイエットをしていた。
 ある日、自分より太っていた知り合いが、げっそり痩せているのを見かける。
 彼はモンキー療法というダイエットをしているらしく、早速教えて貰った場所に行くと……
 出てくる食べ物が明らかにカロリー過多で美味しそうなのが秀逸(笑)
 ラストのヴィジュアルは『蠅男の恐怖』*1並のグロテスクさでいいんだけど、結末がちょっとイマイチ。
 

・「思い出のメロディー」Remembering Melody
 学生時代の親友、メロディーが突然押しかけてくる。
 以前の彼女は楽しい女性だったが、今では人に迷惑を掛けるばかり。
 早く出ていって欲しいのだが、帰ってくると風呂で自殺しており……
 割と普通のホラー。
 ラストはけっこう嫌な感じ。


・「子供たちの肖像」Portraits of His Children
 屋敷で一人暮らす作家。
 ある日、仲違いした娘から肖像画が送られてくる。
 それは彼の処女作の主人公を見事に描いたものだった。
 夜になると、その人物が実際に現れ……
 作家の業と暗黒面をえぐる傑作。
 真相をどう捉えるかは読者次第なんだけど、信用できない語り手好きとしては、全てが……


・「終業時間」Closing Time
 凄い剣幕でバーにやってきた男。
 知り合いから、鷹に変身できるという魔法の首飾りを譲って貰ったらしいのだが、全く違うものに変身したらしく……
 『トワイライトゾーン』とか『アメージングストーリー』にありそうな小品。


・「洋梨形の男」The Pear-Shaped Man
 引っ越してきたアパートの地下に、洋梨のような体型をした不気味な男が住んでいた。
 いつも彼女のことを見ていて、いつしか夢の中にまで出てくる始末。
 仕事や生活にも支障をきたすようになり……
 「モンキー療法」と同じタイプの作品。
 主人公の嫌悪とは逆に、洋梨型の男の部屋を見たくなる筆致が巧み。
 洋梨形の男は完全にタフのイメージ(笑) 


・「成立しないヴァリエーション」Unsound Variation
 学生時代、チェスの試合で大番狂わせの寸前で負けた男。
 それからずっと、チームメイトから嫌みを言われ続けたが、今では彼は億万長者になっていた。
 そんな彼に招待された元チームメイトたち。
 彼は復讐のための、驚くべき方法を語る。
 人生はチェスと同様に無数の選択肢があると同時に、けっして64マスの盤には収まらないことに気づく主人公たち。
 チェス小説であり、○○○○SFの佳作。
 『モーフィー時計の午前零時』に入ってれば……と思ったけど、ちょっと長いか。


ホラーという味付けがされていて、舞台は現実世界だけど、扉を一歩入れば、そこはファンタジーだったりSFだったり。ベッドに潜り込んで、自分だけの世界を創造する子どもにとって、ジャンル分けは意味がないのと同じように。芸達者でどれもツボを押さえているけど、特に「子供たちの肖像」「洋梨形の男」「成立しないヴァリエーション」がお気に入り。
今年のベスト短篇集の1冊かなぁ。


宇宙SF短篇集も予定されているとか(ハヤカワ?)
っつうかさぁ、マーティンを語るのに必ず言及される『ワイルドカード*2をいい加減出し直してよ。
訳者も一人で、表紙がアニメ絵とかになってもいいからさぁ。
ドラゴンランス 1 廃都の黒竜 (上) (角川つばさ文庫)』も漢臭くなくなって復刊したし。