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シルフ警視と宇宙の謎 (ハヤカワepiブック・プラネット)

シルフ警視と宇宙の謎 (ハヤカワepiブック・プラネット)

『シルフ警視と宇宙の謎』ユーリ・ツェー〈ハヤカワepi ブック・プラネット〉 

物理学者ゼバスティアンの息子がキャンプに行く途中で誘拐されてしまう。彼にかかってきた電話は、ある医師を消せと言うものだった。ゼバスティアンは実行するものの、いっこうに連絡が来ない。しかし、キャンプには息子はちゃんと到着していた。自分は量子論的に分岐した多世界に紛れ込んでしまったのか? 一方、殺された医師は医療スキャンダルに係わっていると思われていたため、敏腕警視シルフが呼ばれることに。脳腫瘍で余命幾ばくもない彼だが、ゼバスティアンの世界を救うために奔走する。

ミステリなんだけど、なんか不思議な感触の小説。
キャラクター造型はそれぞれ立ってるんだけど、読むべきはそれではなく、彼らを取り巻く世界、そして、その認識。
選択と解釈によって分岐する多世界理論。その解釈を間違ったため、絶望の世界へと転げ落ちる犯人。それを正常に引き上げようとするシルフ警視。
しかし、多世界解釈は特別なものではなく、作中でも様々な選択と解釈が散りばめられていて、全体像が見えているのは“観測者”だけ。
因果律の輪の中ならば残酷で、自由意志による選択ならばあまりに悲惨。事件とは別に、正しい世界を取り戻そうとするラストは、京極堂の憑物落としに似てるかも。