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『ロマン』ウラジーミル・ソローキン〈国書刊行会 文学の冒険

ロマン〈1〉 (文学の冒険)

ロマン〈1〉 (文学の冒険)

ロマン〈2〉 (文学の冒険)

ロマン〈2〉 (文学の冒険)

古本仲間が、「この世には二通りの人間しかいねぇ……。『ロマン』を読んだ奴とそれ以外だ!」という勢いで薦めてきたので着手。

19世紀ロシア。首都で優秀な弁護士として活躍していたロマンは、画家としての第二の人生を歩むために故郷の村に戻ってきた。愛すべき親類や村人に囲まれ、都会では味わえない、豊かで素晴らしい生活を送るロマン。ある日、森の中で大怪我をしたところを森番の男に助けられる。それを看病する娘、タチヤーナを一目見るなり、二人は深く愛し合う。そして、村中が祝福する中、結婚の宴が始まる……

最初の100ページくらいで「早く終わらないかな……」と考え始める。なんでこれをオススメ?
皆に愛される主人公、善良な隣人、豊かで楽しい田舎の生活……と白々しいほどに愉快な日々が400ページつづいて飽き飽きする。
2巻に入り、「お前を愛している!」「あなたは私の命!」が200ページ続いて辟易する。
しかし! 残り200ページは怒濤の展開! いや、凄いわ(いろんな意味で)
これから読む人の楽しみを削ぎたくないので書かないけど、帯とあらすじでネタバレしちゃってるのはちょっと興醒めだよなぁ。


一切の読み解きを拒絶しているような気もするんだけど、解釈したくなるのはオタクの習性(笑)
単純で愉快な田舎の生活、知識階級と農民の間の親交、労働の素晴らしさ、そこに展開されるのは、まさに、検閲に合格した理想(ロマン)のロシア像。
しかし、それが仮想空間でしかあり得ないことを、我々は知っている。
過剰なほど人間味と自然があふれた描写は、「斧」と「鈴」というウイルスによって、一気にデジタルな世界へと一変。
ラストの200ページは、まるで工場のロボットのよう。世界の再プログラムが始まるものの、そのプログラマーも、デバッガーも狂っているため、再び世界は0と1の羅列と化していく……。
作者は狂っているどころか極めて冷静で、理想の破壊と冒涜は本当に凄まじい。読んでいるこちらの脳にまで壊れたプログラムが流れてくるようで、ラストのゲシュタルト崩壊は口で言い表せない。
読み終えてふらふらですよ。
これで、俺も立派にロマニスト(笑)