THE YIDDISH POLICEMEN’S UNION

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈上〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟〈下〉 (新潮文庫)

ユダヤ警官同盟マイケル・シェイボン新潮文庫シ-39-1、2〉

ナチによる迫害を機に、亡命ユダヤ人を受け入れて誕生したアラスカ・シトカ特別区。安ホテルでヤク中が殺される。傍らにはチェス盤、手口から見てプロの犯行らしい。同じホテルに居を構える、酒浸りの日々を送るランツマン刑事は、彼にどこか共感を覚え、捜査を開始するが、特別区アメリカへの返還を2ヶ月後に控えているため、余計な捜査は不要と打ち切りを命じられる。しかし、相棒のベルコと共も暴走気味に捜査を続けるランツマン。殺されたのは、ユダヤ人の救世主として期待されていた男だとわかるが、様々な勢力が事件を葬ろうとする……

境界線と地図の物語。
世界の地図。シトカ区の地図。地下の地図。シトカと先住民族とのあやふやな境界線。ユダヤ教の半ば秘術的な境界線。夫婦、親子、人と人との境界線。そして、故国の地図も境界線も持ったことがないユダヤ民族。
また、ジャンル的にも、その境界線をひらりと跨いでいる。
ランツマンを始め、拠り所を持たないユダヤ民族。確固たる拠り所を得るのが彼らの悲願だけど、陰謀によってそれを得ようとする時、今までの境界線は暴力的に変わることになる。さらに、それによって、物語と現実との境界線も破れ、両者の歴史は合流するかもしれない。そこで、ランツマンが最後に見つけた、自分たちの拠り所とは? 単なる紙っぺらに過ぎないユダヤ警官同盟証こそが、拠り所となるべき象徴なのでは?


全く知らないユダヤ人の生活と、さりげなく語られるSF的背景によって、世界はひじょうに奥行きをもって描かれている。背景に映り混む程度にしか語られないけど、改変歴史ものとしても、けっこう凄いことになっていそう。ただ、あくまでメインは疲れた中年刑事ランツマンの奮闘。
元妻で、今のボスであるビーナのツンデレっぷり(笑)も読みどころ。


まだ数冊しか読んでないけど、シェイボンの作品では一番面白い。
ハヤカワではなく新潮から出たのがちょっとびっくり(笑)