VERMILION SANDS

ヴァーミリオン・サンズJ・G・バラード早川書房 海外SFノヴェルズ〉
必読作家なのにほとんど読んでないので、追悼を機に着手。


 収録作品
・「コーラルDの雲の彫刻師」 The Cloud-Sculptors of Coral D
 グライダーに乗って、雲を様々な形に変える彫刻師。
 女性資産家がパーティの余興で彼らを雇うが……


・「プリマ・ベラドンナ」 Prima Belladonna
 周りにいる人間の感情に反応して歌う植物を売る花屋。
 魅力的な女性歌手と付き合うようになるが……


・「スクリーン・ゲーム」 The Screen Game
 映画撮影で、砂漠を覆うほどの背景(スクリーン)を描くことになった画家。
 その監督の別荘で、精神を病んだ女性と出会う。
 彼女は、そのスクリーンを並べて迷路を作るゲームに夢中になるが……


・「歌う彫刻」 The Singing Statures
 いんちきして自作の音響彫刻を女優のに売ったアーティスト。
 彼女はその彫刻に心奪われたらしく、
 罪悪感と恋心から、アーティストは作品の調節として家に通うが……


・「希望の海、復讐の帆」 Cry Hope, Cry Fury!
 ヨットが故障し、砂の海で遭難した男。
 たまたま通りかかった美女に助けられ、彼女の島で過ごすことに。
 対象の姿と精神状態を独りでに写し取る絵の具で肖像画を描くことになるが……


・「ヴィーナスはほほえむ」 Venus Smiles
 芸術委員会のために女性作家が作った音響彫刻。
 しかし、それはあまりに不快な音を奏でるため、解体して委員の家に運ぶことに。
 ある日、その彫刻がどんどん成長していることに気づき……


・「風にさよならをいおう」 Say Goodbye to the Wind
 精神状態によって変化する活性繊維の服。
 それを買った元女優から、店に電話が。
 服が暴れて、クローゼットの中にあったものを滅茶苦茶にしたというのだが……


・「スターズのスタジオ5号」 Studio 5, The Stars
 詩の雑誌を編集している男。
 隣に引っ越してきた女は、どうやら詩人志望らしいのだが、その出来はあまりにひどい。
 掲載しないでいると、その行為は異常なものとなり……


・「ステラヴィスタの千の夢」 The Thousand Dreams of Stellavista
 ヴァーミリオン・サンズで家を探す弁護士夫婦。
 住むことにした家は、かつて夫を射殺した女優の精神がしみこんだ家。
 彼は若い頃、彼女の弁護を手伝ったのだ。


基本はファム・ファタルもの。
でも、男を破滅に追い込むのは、精神を病んだ服や家、花であり、場所は永遠の倦怠を結晶化させた砂漠地帯。
どこまでも広がる砂のリゾート地(空はおそらく常に晴天)に、飽きることに飽きている人々、どんな異常で新奇なことでさえ、すぐに退屈に飲み込まれる空気とあらゆるものに染みこんでいる狂気、その倦怠感にあてられてしまう。
似たような話が続くんで、正直、ちょっと飽きるんだけど、それもまた気怠いヴァーミリオン・サンズを体験するのに一役買っている。
個人的お気に入りは、「コーラルDの雲の彫刻師」「プリマ・ベラドンナ」「風にさよならをいおう」あたり。