BEGGARS IN SPAIN AND OTHER STORIES

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

『ベガーズ・イン・スペイン』ナンシー・クレス〈ハヤカワSF1704〉
プロバビリティ三部作がイマイチ面白くなかったで、不安を抱きながらもいちおう着手。
ちなみに初訳は表題作のみ。


 収録作品
・「ベガーズ・イン・スペイン」Beggars in Spain
 遺伝子操作によって産まれた、睡眠を必要しない子供たち。
 彼らはそれだけでなく、高い知能も持ち、さらに有眠人とは比較にならない肉体を持っていた。
 無眠人への恐怖と差別が始まり、両者の間には大きな溝が。
 弁護士を目指す無眠人のリーシャは両者の共存を目指すが……
 全体の3分の1を占める中篇。
 クレスの作品に流れているのがディスコミュニケーション
 ここでは、有眠人と無眠人、無眠人同士、親子、姉妹、といくつも重なって描かれている。


・「眠る犬」Sleeping Dogs
 無眠人のDNAを使って、眠らない番犬を売り出そうと考えた一家。
 しかし、その犬はなぜか調教ができず、そのうち悲劇が…… 「ベガーズ・イン・スペイン」と同じ設定の物語。
 なんか、キャラクターの印象が違う。


・「戦争と芸術」Art of War
 地球と戦争を続けているテル人。
 テル人が地球から略奪した物品を保管した倉庫の調査に向かった大尉。
 しかし、そこにあるのは超1級の美術品から、単なるガラクタまで。
 はたして、その意味は?
 親子の反目と異星の理解、芸術への理解が対になっていて、わかり合おうとしないことに対する哀れみ。
 また将軍の大勝の秘密など、ラストまで読ませてくれました。


・「密告者」The Flowers of Aulit Prison
 妹を殺した女性。
 彼女が先祖の元へ迎えられるよう、そして自分も再び共有現実に受け入れられるように政府のために密告者を務めている。
 今度の任務は、刑務所内の地球人を探れと言うものだったのだが……
 プロバビリティ三部作の原型。
 共有現実が長篇版ほど激しくない代わりに、結構分かり易い。


・「想い出に祈りを」In Memoriam
 記憶を消去しないと、その重みで肉体が崩壊してしまう。
 母に消去を勧める息子だが……
 人間を人間たらしめる構成要素。
 なかなかショッキングなショートショート


・「ケイシーの帝国」Casey's Empire
 SF作家志望のケイシー。
 大学では評価されず、出版社もなかなか買ってくれない。
 ピザ屋や掃除婦をしながら書き続けているが、ある日……
 SFよりもSF作家を選んでしまった男の慟哭の物語。
 SF作家としても、自分の帝国を捨てたってこと?


・「ダンシング・オン・エア」Dancing on Air
 遺伝子操作されたダンサーが殺される。
 そのバレエ団でダンサーを目指す娘を持つ記者は、
 プリマとその母親を調べることにするが……
 選択の物語。
 才能か、健康か、それがわかるのは本人だけ。


長篇より短篇の方が面白いなぁ。長篇は、ここに出てきたネタを一つにつなげて、なおかつメリハリがなくなった感じなんだよね。
クレスの作品は、読後感がどうもいがらっぽい。