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時間封鎖〈上〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈上〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈下〉 (創元SF文庫)

時間封鎖〈下〉 (創元SF文庫)

2006年度ヒューゴー賞受賞作

ある夜、空から星が消えた。膜のようなものが地球を覆ったのだ。1週間それを観測した宇宙ステーションは、地球への帰還を決意する。しかし、彼らが着陸したのは星か消えた翌日だった……。地球は膜を隔てた宇宙よりも1億倍時間が遅くなっていたのだ! 何者の仕業なのかは不明だが、このままでは、50年後には地球は太陽に飲み込まれてしまう。人類を残すため、火星をテラフォーミングする計画を立てるが……

まさに、SFーッ! という読書感。
そもそも、地球が覆われ、時間が一億倍遅くなるというオープニングだけで、SFマインドが燃えますよ。さらにこの時間差を利用した火星のテラフォーミングなんて……。空がなくなるというメインアイデアだけだと『宇宙消失』と似てるんだけど、その感触はまるで違い、個人的にはこちらの方が遙かに楽しめた。
物語は、地球を覆う膜『スピン』の謎と、図らずもスピンを巡る事件に係わることになった主人公の人生が軸になっている。
地球の1秒は宇宙の3年以上。地球、火星、冥王星、そして太陽系外、と時間も空間も俯瞰図は巨視的になっていくと同時に、地球内では(それらに比べれば)ミニマムな暴動や自殺、政治によって混乱していく世界が描かれる。
語り手でもある主人公タイラーは医師、その親友で宇宙計画の中心人物になるジェイスン、ジェイスンの双子の姉で宗教にはまるダイアン。三人が子どもの時に地球はスピンに包まれ、それからの三人の二十年以上の人生が語られていく。
スピンと彼らの物語の並列は無意味ではなく、主人公たちの残りの人生と地球の残り時間がほぼイコールなんだよね。そして火星からもたらされる人生の第四期への移行という考えが、地球の未来にもあてはまる。タイラーの個人的な決意と人類の未来が一点に収束していく。
大変満足したけど、三部作か……
とりあえず、話自体はこれで完結しています。
読み応えがありながらも、リーダビリティもよく、最近のSFの中ではイチオシかな。