THE ATROCITY ARCHIVES

残虐行為記録保管所 (海外SFノヴェルズ)

残虐行為記録保管所 (海外SFノヴェルズ)

・「残虐行為記録保管所」The Atrocity Archive
チューリングが基礎を築いた数学的魔術により、平行宇宙から侵入してくる異生物に対抗すべく英国政府が設立した組織〈ランドリー〉。ボブ・ハワードはその新米エージェント。初の任務は、アメリカから帰国を許されないモー教授との接触。簡単な任務だったはずなのに、モー教授はテログループに誘拐。SWATによって救出されたが、誘拐犯の目的は不明。どうやら、背後にはナチの魔術研究機関アーネンエルベの関与も疑われる。二人は、真相を調べるため、二次大戦中のナチのオカルト記録が収められた残虐行為記録保管所へと向かうが……


・「コンクリート・ジャングル」The Concrete Jungle
緊急事態で朝から呼び出されたボブ。何もわからないままミルトンキーンズに向かうと、そこには高熱で焼死した牛が。どうやら、何者かが監視カメラにメデューサ効果をアップロードして殺したらしい。さらに犯人は、ロンドン金融街に流すと脅迫してきた。ボブは地元の刑事と共に犯人を捜すが、その裏には更なる陰謀が……

ハヤカワのSFでは、久々に「あ〜、面白かった」という読後感。刊行が半年早ければ、これにサインしてもらいたかった……


クトゥルーチューリング、栄光の手、アーネンエルベ、ウルフェンシュタイン、ケッテンクラート、Qディヴィジョンと並べられたら、ニヤニヤしながら平らげないわけにはいかないでしょう。
特にケッテンクラート! やっぱ、ストロス、わかってるよ(笑)


『シンギュラリティ・スカイ』*1『アイアン・サンライズ*2ではイマイチ風味が薄かったけど、こちらはストロス作品らしい、皮肉なユーモア、オタク好きするあふれんばかりの情報がたっぷり。個人的には、スペオペよりも、現代(もしくは近未来)の方が、釣られる情報がてんこ盛りで好きだなぁ。
魔法は数学で制御されている割には、普通にゲアスの呪文を使ったり、ラミアがいたりするのがちょっとチグハグな印象を受けたけど、科学技術で作られるオカルト武器はなかなか楽しい。
でも、それらのガジェットよりも、クトゥルー系魔物から世界を守っているにもかかわらず、何をするにも書類を書かねばならず、予算はうるさく、常に遅刻を上司に咎められているお役所的な光景が笑える。また、ボブの、超極秘機関の職員でありながら忠誠心は薄く(恐れているけど)、コンピュータオタクで減らず口を叩き、ドジを踏みながらも、機転と勇気で困難を乗り越えていく姿は親しみが持てる。
人間がけっして理解できない異世界の魔物、説明されないけれどオタクには理解できるネタ、そして、共感できるボブの日常、といいバランス。
続きが出ることも期待! そして、次こそは「アッチェレランド」を!


ところで、「コールダー・ウォー」と設定が似てるけど、つながってるわけじゃないのかな?