COME ALONG WITH ME

こちらへいらっしゃい (1973年) (世界の短篇)

こちらへいらっしゃい (1973年) (世界の短篇)

『こちらへいらっしゃい』シャーリイ・ジャクスン〈早川書房 世界の短篇〉
遺作を含む短篇集

収録作品
・「こちらへいらっしゃい」 Come Along With Me
・「ジャニス」 Janice
・「女奴隷トゥーティー」 Tootie in Peonage
・「カリフラワーを髪に」 A Cauliflower in Her Hair
・「わが愛する人は」 I Know Who I Love
・「美しき新来者」 The Beautiful Stranger
・「夏の終り」 The Summer People
・「島」 Island
・「ある訪問」 A Visit(The Lovely House)
・「岩」 The Rock
・「ジャングルの一日」 A Day in the Jungle
・「パジャマ・パーティー」 Pajama Party(Birthday Party)
・「ルイザよ、帰ってきておくれ」 Louisa, Please Come Here(Louisa, Please…)
・「小さなわが家」 The Little House
・「夜のバス」 The Bus
・「体験と創作」 Experience and Fiction
・「家じゅうが流感にかかった夜」 The Night We All Had Grippe
・「ある短編小説伝」 Biography of a Story
・「くじ」 The Lottery
・「若き作家への提言」 Notes for a Young Writer

帯のキャプションに「占星術を愛するあなたに十二宮が語りつぐ愛と恐怖の物語を!」とあるけど、どういう意味なのかさっぱり不明。


「こちらへいらっしゃい」は遺作。
未完の長篇だけど、あまり尻切れトンボという感じにはなっていない。
夫が亡くなり、見知らぬ町で下宿することにした中年女性の物語で、彼女の語りがけっこうムカムカさせられる(笑)


個人的お気に入りは、
・「わが愛する人は」
 都会で働いている女性。
 牧師だった父はなくなり、母も病床にあった。
 彼女は両親と、自分の過去について思いをはせる。
・「夏の終り」
 夏別荘を愛し、毎年やってくる老夫婦。
 今年は初めてレイバー・デイ以降も過ごそうとするが……
 この短篇集では、これが一番好き。
 ただの疑心暗鬼なのか、村ぐるみの陰謀なのか、判然としないところが恐ろしい。
・「ある訪問」
 夏休み中、友人の家で過ごすことにした少女。
 そこは様々な部屋がある豪邸だった。
 しばらくして、軍隊にいる友人の兄も帰ってくるのだが……
 『山荘綺談』の別バージョンといった趣。「少女失踪」にも似た不気味さもある。
・「ジャングルの一日」
 夫を捨て、ホテルに泊まった女性。
 自分は、今までとは違う女だと振る舞う。
 しばらくして、夫から話をしようと電話がかかってきて……
・「パジャマ・パーティー
 11歳になったジャニー。
 誕生日に友達とパジャマ・パーティーがしたいという。
 渋々それを許したのだが……
 『野蛮人との生活』のつづき。「家じゅうが流感にかかった夜」に似たスラップスティック
 ジャニーもこんなに大きくなっちゃって。
・「ルイザよ、帰ってきておくれ」
 三年前、家族を捨て、身をくらましたルイザ。
 彼女は別人として、さほど遠くない町で暮らしていた。
 毎年、いなくなった日に、ラジオから母親の声が流れてくる。
 ある日、偶然にも以前隣に住んでいた青年に見つかってしまい……
・「小さなわが家」
 伯母が亡くなり、家を譲られた女性。
 家の中を見ていると、隣人だという老姉妹がやってきて……


「体験と創作」、「ある短編小説伝」、「若き作家への提言」は創作に対する講演録。特に「ある短編小説伝」は「くじ」発表時の反応ですこぶる面白い。


ジャクスンの作品は、「悪意」と言うほど強くはない意地悪さが、ボディブローのように効いてくる。意地悪する側は本当に、ちょっと意地悪してやろうくらいの気持ち(もしくは意識していない)程度なんだけど、やられる側は、それをどう受け取るか。「夏の終り」、「小さなわが家」はまさにその頂点の作品。
また、女一人、見知らぬ場所、誰も自分を知らない場所にやってきて、というシチュエーションが多いね。何かするために来るのではなく、来ることによって残してきた人々にダメージを与える。ただ、因果応報的に帰ってくる側面も。「ルイザよ、帰ってきておくれ」のラストは幸せなのだろうか。
全体的に女性のブラックな部分を作品が多く、男としては第三者的な嫌な気分になるんだけど、女性はどういう感想なんでしょ?