2007年度掲載翻訳短篇

2007年度の『S-Fマガジン』掲載翻訳短篇総括。

・「ライトと受難者」……ジョナサン・レセム
・「二人称現在形」……ダリル・グレゴリイ
・「デイドリーム・ネーション」……ボール・ディ・フィリポ
・「熱力学第一法則」……ジェイムズ・パトリック・ケリー
・「避難所」……スティーヴン・バクスター
・「カロリーマン」……パオロ・バチガルピ
・「トゥク・トゥク・トゥク」……デイヴィッド・D・レヴァイン
・「I:ロボット」……コリイ・ドクトロウ
・「迷える巡礼」……ジーン・ウルフ
・「ローグ・ファーム」……チャールズ・ストロス
・「合作」……マイクル・ビショップ
・「バラと手袋」……ハーヴェイ・ジェイコブス
・「認識」……J・G・バラード
・「ウィリー・ワシントンの犯罪」……チャールズ・ボーモント
・「カリフォルニアの魔術師たち」……クリストファー・コンロン
・「パリに行きたい」……ミハイル・ヴェレル
・「沈黙のすみれ」……ヴァジム・シェフネル
・「カルメン」……夏笳
・「秘密」……ロベルト・ロペス・モレーノ
・「きみのすべてを」……マイク・レズニック
・「夜明け、夕焼け、大地の色」……マイクル・F・フリン
・「八つのエピソード」……ロバート・リード
・「同類」……ブルース・マカリスター
・「見果てぬ夢」……ティム・プラット
・「イエローカードマン」……パオロ・バチカルビ
・「ポル・ポトの美しい娘」……ジェフ・ライマン
・「ジンの花嫁」……イアン・マクドナルド
・「パーティで女の子に話しかけるには」……ニール・ゲイマン
・「あなたの空の彼方の家」……ベンジャミン・ローゼンバウム
・「スカイ・ホライズン」……デイヴィッド・ブリン
・「銀河ホテルマンは眠れない」……ニール・バレット・ジュニア
・「ニュースレター」……コニー・ウィリス
・「あの季節がやってきた」……チャイナ・ミエヴィル
・「クリスマス・ツリー」……ピーター・フレンド
・「郊外の平和」……M・リッカート

今年はなんと言っても、ワールドコンに尽きるでしょう。
ノヴェレットとショート・ストーリー部門のヒューゴー賞候補作が全て訳され、投票に参加できたのが、SF者として感謝。


個人的お気に入りは、
・「二人称現在形」……ダリル・グレゴリイ
 ゼンというドラッグの過剰摂取で、自我が消滅した少女。
 入院して2年、やっと普通に生活できるようになった。
 しかし、自分を娘と呼ぶ二人の男女に親しみはなく、
 また、以前の自分のことを聞かされても、「彼女」としか思えない。
 取り敢えず家に連れて行かれ、リハビリを開始するが……
 デリートされ、上書きすれば、それはそれで、新たな自分。
 元の自分を取り戻す必要も、統合することもない。


・「カロリーマン」……パオロ・バチガルピ
 シオドア・スタージョン記念賞
 石油が枯渇し、高カロリーバイオ穀物企業が世界を支配している未来。
 骨董商のラルジは、友人の社長から川を遡ってある男を運んでほしいと頼まれる。
 多大なエネルギー代は払うという。
 果たして、その男の正体は?
 あらすじ自体は特にこれということはないんだけど、
 動力はすべてゼンマイ、そのゼンマイを巻くのが小型の像のような生物、というヴィジョンにメロメロ。
 同じ世界を描いた「イエローカードマン」がヒューゴー賞ノミネート。


・「バラと手袋」……ハーヴェイ・ジェイコブス
 あらゆるガラクタに執着していたいじめられっ子。
 子供の時に彼と交換したおもちゃをもう一度手に取りたくなり、彼の元へ行く。
 そこには、巨大な倉庫で、思い出の品を取り戻したくて、下働きをしている元いじめっ子たちがいた……
 これはなかなか好き。ガラクタによって、世界を握っている感が何とも。


・「認識」……J・G・バラード
 女と小人の二人だけの寂れたサーカスがやってきた。
 その檻の中には……
 よくわからなかったんだけど、思わず背後を振り向きたくなるような寒気がする作品。


・「カリフォルニアの魔術師たち」……クリストファー・コンロン
 ボーモントを中心としたカリフォルニア・グループを描いたエッセイ。
 本当にドラマチック


・「パリに行きたい」……ミハイル・ヴェレル
 幼い頃から、パリに憧れていた男。
 しかし、ソ連では容易に海外に行けるはずもなく、結婚し、子供も生まれ、その気持ちは薄れていた。
 定年間近のある日、ついにパリに行けることに!
 がらがらと全てが崩れていく感じが何とも。


・「沈黙のすみれ」……ヴァジム・シェフネル
 電車の中で出会った男に、殴らせてくれと頼まれる。
 といっても、ただ殴られたと警察に訴え、自分を拘留して欲しいという。
 妻が気が狂うほどのおしゃべりで、それから逃れたいというのだが……
 焦点がどこに定まってるか分からないんだけど、その全てが変。
 異色短編というより、変な話。


・「八つのエピソード」……ロバート・リード
 ショート・ストーリー部門候補作
 あまりの人気のなさに数話で打ち切られたSFドラマ。
 しかし、DVD化されてからカルト的な人気に。
 その理由は?


・「ポル・ポトの美しい娘」……ジェフ・ライマン
 ノヴェレット部門候補作
 無軌道に贅沢に暮らすポル・ポトの娘セット。
 彼女は携帯電話を売る普通の青年と恋に落ちる。
 田舎の両親にも紹介されるが、自分の素性はとても言えない。 
 するとある夜、家のコピー機から、ポル・ポトに虐殺された人々の写真がどんどん吐き出され始める。


・「あなたの空の彼方の家」……ベンジャミン・ローゼンバウム
 ショート・ストーリー部門候補作
 老いた宇宙で、一人暮らすマサイアス。
 そこに創造主たる巡礼がやって来るという。
 しかし、ちょうどその頃、彼の作った世界で、両親の諍いに心を痛める少女がいた……
 今のところ三作しか訳されてないけど、どれもアタリ。


・「あの季節がやってきた」……チャイナ・ミエヴィル
 クリスマスのあらゆる事象の権利を企業が独占し、金を払って許可を得なければならない未来。
 僕はクリスマス・パーティの券が当たり、娘を連れて行くことにしたが……
 ミエヴィルは短編集出て欲しい作家だなぁ。


・「クリスマス・ツリー」……ピーター・フレンド
 貧しい村。
 少年は、谷で富をもたらす実をつけるクリスマス・ツリーを見つける。
 逃げないように捕まえ、餌を与えて……


特集としては、『ドラッグSF特集』、『異色作家特集I』、『異色作家特集II』、『ワールドコン特集I』、『ワールドコン特集II』が面白かった。


ついでにミステリマガジン掲載のお気に入りは、
・「ババ・ホ・テップ」……ジョー・R・ランズデイル
 死んだのはそっくりさんで、実は老人ホームで生きていたプレスリー
 しかし、もうよぼよぼのじいさん。
 ある日、ケネディ大統領だと自称する入居者(黒人)から、驚くべき事実を告げられる。
 ホームにエジプトのミイラが潜んでいて、老人たちの魂を食べているというのだ。
 現に、象形文字の落書きも存在している。
 二人は、ホームと仲間を守るため、戦いを決意する!
 『プレスリーvs.ミイラ男』の原作


・「恐竜ボブのディズニーランドめぐり」……ジョー・R・ランズデール
 恐竜の人形のボブ。
 寝ても覚めても口にするのはディズニーランドのことばかり。
 とうとう、念願のディズニーランドに行くのだが……
 これはショートショートながら傑作。映像化したらモザイクとピー音必須。


・「プラン10・フロム・インナー・スペース」……カール・エドワード・ワグナー
 謎の惨殺、誘拐事件が起きる小さな町。
 それは、ナチスのUFOと古代怪獣の陰謀だった!?
 いやぁ、題名だけで嬉しくなっちゃいますな。
 ロジャー・コーマン映画の原作、と言う体裁。
 南極か北極か、ちゃんと確認しろっちゅうに(笑)
 アンゴラ・セーターも強調しなくていいよ。


2月号はモンスターもの特集なので、SF者も必読。
幻想と怪奇特集はもうやらないのかなぁ。