BEL CANTO

ベル・カント

ベル・カント

ベル・カント』アン・パチェット〈早川書房
a nanny mouseさんのオススメで着手。

南米の小国。工場誘致のため、日本の大手企業社長の誕生パーティが副大統領官邸で開かれていた。社長がオペラ好きのために世界的歌手のロクサーヌ・コスが歌う中、突如テロリストに占拠される。しかし、誘拐しようとしていた大統領が欠席していたため、テロリストの計画は最初から頓挫。要人たちを人質に、要求を通そうと考える。しかし、幽閉生活が続くうちに、人質たちは今まで自分でも知らなかった幸せのあり方や平穏を覚え始め、またテロリストも貧しい家の子供たちばかりで、知的な人質と接して、知らなかった世界を学ぶことに喜びを見いだす。人質とテロリストは、ロクサーヌとその歌に恋をし、彼女を中心に平和な世界が形作られ、官邸内の人々は、このままの未来さえも思い浮かべるが……

96年にペルーで起きた日本大使館公邸占拠事件をモデルにしていることからもわかるとおり、物語の行く末は容易に想像がつく。それでも、キャラクターのそれぞれが、新たな自分と幸せを見つけていく姿は感動的で、あまりに平和で、幸せな小世界が永遠に続けばいいのに、と願ってしまう。
異常であるはずの官邸内に対して、正常であるはずの交渉人だけが疲れ果てていくのが印象的。また、全員で庭に出るシーンとセサルが歌を歌シーンが涙のツボ。
いろんなことを考えちゃうけど、言葉にするのが難しい一冊です。オススメ。