THE MONSTER BOOK

千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 (創元推理文庫)

千の脚を持つ男―怪物ホラー傑作選 (創元推理文庫)

『千の脚を持つ男』中村 融・編〈創元推理文庫F555−03〉読了
異変に気づいているのはただ一人の変わり者だけ。
しかし、誰も信じてくれず、その間にも被害は広がる……
というオールドファッションに、どうして、これほど胸躍ってしまうのだろう。
そして、
暗がりから引き出され、光の元に曝される怪物。
脅威のはずなのに、そこに哀れみを感じてしまうのはなぜ?
そんな人間に贈られた、日本オリジナルアンソロジー


 収録作品
・「沼の怪」……ジョゼフ・ペイン・ブレナン
 あらゆる生物よりも古く、全てを補食する原形質の生命体。
 火山の爆発により、海底から陸地の沼地まで飛ばされてしまう。
 それはあっという間に状況に順応し、食事を始める……
 これは、まさにオールドファッションな作品。
 でも、かなりわくわくしてしまいました。
・「妖虫」……デイヴイッド・H・ケラー
 先祖代々粉挽き小屋を営んでいた老人。
 ある日、家の真下から奇妙な音が聞こえてくる。
 固い岩盤の上に立っているはずなのだが、地下室が傾斜し始め……
 金塊の設定がどうでもよくなってるけど、そんなことこそどうでもよくって(笑)
 怪物の圧倒的存在、そしてその理由がたまらない。
・「アウター砂州に打ちあげられたもの」……P・スカイラー・ミラー
 大地震による津波で様々なものが打ち上げられた。
 しかし、アウター砂州に打ち上げられたものは……
 これは、なんか恐怖を覚えました。
 ニンゲン?
・「それ」……シオドア・スタージョン
 森の中に現れた「それ」
 知的好奇心に突き動かされ、出会う動物をバラバラに分解する……
・「千の脚を持つ男」……フランク・ベルナップ・ロング
 若き天才科学者。しかし、インチキの烙印を押されてしまう。
 彼は自説を証明するため、装置を開発するのだが……
・「アパートの住人」……アヴラム・デイヴイッドスン
 立て替えのために、アパートから住人を追い出す男。
 しかし、一人の老婆だけは何を言っても出て行こうとしない。
 彼女の部屋には……
 ほら話的な語り口が何とも言えない。悲しくも禍々しい。
・「船から落ちた男」……ジョン・コリア
 大海蛇を求めて航海を続ける富豪。
 ある島で男を乗せるのだが、彼は全く大海蛇を信じておらず、
 小馬鹿にしたような発言ばかり。
 そんなある日……
 これはラストが泣ける。
 SF者は、元々は恐竜好きか星座好きに源流を求められる、みたいなことを聞いたことがあるけど、
 この作品はまさにその言葉を物語かしたような短篇。
・「獲物を求めて」……R・チェットウィンド=ヘイズ
 霊感の強い主婦。
 ある夜、何かの影を感じる。
 夫に部屋の電気をつけておいてくれと頼むのだが……
・「お人好し」……ジョン・ウィンダム
 蜘蛛の採集が趣味の夫。
 ある日、部屋の掃除をしていた妻に、一匹の蜘蛛が話しかけてくる。
 彼女は神話のアラクネらしい。
 気分転換で、24時間だけ、その妻と体を交換して欲しいと頼むが……
 怪物ものと言うよりは、コメディ色の方が強い。
 でも、オチはきついし、描き方も上手いなぁ。
・「スカーレット・レイディ」……キース・ロバーツ
 自動車修理工場を営む男。
 弟が、古いが、見事な赤い車を買ってくる。
 しかし、その車は曰く付きで、彼もまた魅入られていく……
 『クリスティーン』『ザ・カー』に比較する以上の感想はないんだけど、
 ラストがなんとも嫌な感じ。


粒ぞろいで、ハズレなしの短篇集。半分は初訳だし。
個人的お気に入りは、「沼の怪」、「アウター砂州に打ちあげられたもの」、「アパートの住人」、「船から落ちた男」、「お人好し」あたり。