L'adversaire

嘘をついた男

嘘をついた男

『嘘をついた男』エマニュエル・カレール河出書房新社〉読了

フランスのジェックス地方で早朝、火事が発見される。
そこは、WHO職員ドクター・ロマンの家。
妻と二人の子供は焼死体となって発見され、彼は火傷を負って病院へ運ばれる。
数キロ離れた彼の両親に知らせにいくと、二人は何者かに殺されていた。
ロマン家を狙った仕業か!?
家族からも隣人からも、愛され、尊敬されていたロマン一家。いったい、誰が?
しかし、程なく、それは全てロマンの手によるものだと判明。
しかも、それだけではなかった。彼は18年間、嘘をつき続けていたのだ……

嘘みたいなホントの話、という謳い文句はよくあるけど、見事に嘘みたいな嘘の話。
1993年にフランスで実際に起きた事件に興味を持ったカレールが、ロマンと文通、取材し、それを元に小説仕立てで構成したノンフィクション。
ロマンは大学2年のときに落第し、そこからずっと、卒業した振り、インターンに行った振り、WHOへ就職した振りを、18年間も続け、ついににっちもさっちも行かなくなり、家族を殺した男の物語。
本当に、何で誰も気づかなかったのか? 
彼の周りが歪んで、全てを屈折させていたかのよう。その歪みは強烈で、WHOに就職するときは、読んでいて眩暈と吐き気がしたほど。もしかしたら、彼の話が本当で、単にこちらが嘘の話だと思い込んでいるのでは? という錯覚に陥る。


ロマンが語る思い出や大学に落第した理由は、すでに確かめようもなく、おそらく嘘(もしかしたら、本当か?)。
彼自身、その嘘を信じていたというより、自分でもわからなくなっていたような気がする。
ラスト、刑務所の中である種幸福な彼の姿は、彼のしてきたことを考えればとても許容できないんだけど、哀れみも覚える。事件の直前まで、何をやっても怪しまれない。運命のシステム・エラーにはまってしまい、不運な男なのかも知れない。