VAMPED

大吸血時代

大吸血時代

『大吸血時代』デイヴィッド・ソズノウスキ〈求龍堂
書店で表紙を見て衝動買い。かわいいなぁ〜

吸血鬼による大革命が起き、世界中のほぼ全てが吸血鬼になった世界。
人間は特権階級のための人間牧場にいるだけで絶滅状態。
この状況を創り出した一員であり、100年近く生きるマーティは最近鬱気味。
ある日、人間牧場から逃げてきたイスズという女の子を拾う。
最初はしばらく育ててから、レアな人間の血を頂こうと考えていたのだが、
突如、父性愛に目覚め、娘として育てることを決意。
しかし、周りは吸血鬼だらけ、人間に必要なものなど、とっくになくなった世界。
マーティは無事イスズを育て上げることができるのか!?

オタク系の世界改変もの(『ドラキュラ紀元 (創元推理文庫)』とか『天使墜落』とか『ワイルドカード』とか)は大好物。
ドラキュラ紀元』が超越者として人間の世界を支配し、他のヴァンパイアものが闇に潜んでいるのに対して、
この作品は、ヴァンパイアだけになった社会を、馬鹿馬鹿しくも真面目に構築しているのが面白い。
また、ヴァンパイアが怪物的ではなく、一般人としての普通の生活を描写しているのも特徴。
ドラキュラ紀元』や『ワイルドカード』はヴァンパイアやスーパーヒーローがいるだけで、
社会が根底から変化しているのはあまり描かれていないんだよね。
日中はみんな寝ているんだけど、
夜になれば会社に行って、
工場で作られた人工血液をスーパーで買って、
世界中が吸血鬼なんだから教会も、インターネットもある。
病気ならないから病欠はできないし、
自然死はないから、事故死は全世界的なニュースになる。
一方、人間を育てるとなると困難が待ち受ける。
薬局はとっくにないし、
お菓子はネットオークションで高値をつけているし、
トイレはみんなが寝静まった日中にしか使えないし、
ヴァンパイアと違って、どんどん成長する。


悪戦苦闘する、新米パパの子育て小説(ヴァンパイア版)という感じ。
基本的にいい人(ヴァンパイア)しか出てこないし、
あまり深みはないんだけど、
変化球ヴァンパイアものとしては、なかなか好み。
これがホラーなら、
人間牧場とか、マーティのヴァンパイア地位、人間と永遠の命なんかの設定を、
もっと転がせたと思うんだけど、
まぁ、あくまで子育てと女の子の成長物語だからなぁ。
ラストは予定調和的なんだけど、『プリンセスメーカー』はハッピーエンドじゃないとね。


ニューオリンズの白デブ吸血鬼』ほどのインパクトはないけど、
あれが好きな人なら楽しめると思う。


最初の方で、イスズが♪MY ONLY SUSHINE……と歌うシーンがあるんだけど、不覚にも涙腺緩む。
ケッチャム好きと公言してはばからない俺が、
まさか、ガキンチョの舌っ足らずな歌のシーンが涙のツボなのか!?


求龍堂の本って、買うのも読むのも(たぶん)初めてなんだけど、
既刊紹介見ると、けっこう奇想っぽいの多く出してるのね。