THE TWO JANETS and other stories
- 作者: テリー・ビッスン,中村融
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2004/02/07
- メディア: 単行本
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奇想コレクション第3巻。
3巻は、名手と呼ばれながら、
なぜかやたらとノベライズを書いている(笑)テリー・ビッスン。
(あとがきによると、本人は結構その手の仕事が好きだとか)
初訳は1作だけだけど、ありそうで出てなかったビッスンの短篇集だから、
これは買いでしょう。
それにしても、奇想コレクションの表紙は、この手の叢書としてはベストかも。
5巻以降もこの方で行って欲しい。
・『熊が火を発見する』
ある日、アメリカ中の熊が松明をもち、焚き火に当たっているのが目撃される。
……それだけ。
いや、それだけじゃないんだけど、アウトラインはそんな感じ。
南部のホラ話と形容されるけど、まさにヘンな話。
これだけの話って凄いけど、
なんで発表時にそんなに大絶賛されたの?
・『アンを押してください』
ある日、彼と映画を見るためにATMに入った女性。
引き落とそうとすると、画面に
「お引きだし、お預入、お振り込み、天気」と出て……
結構好きな作品。
ATMの中の会話だけの話。
舞台化されたそうで、その様子が目に浮かぶよう。
・『未来からきたふたり組』
ある日、絵描きを目指しながら、画廊の警備員をしている女性の前に、
未来から来たという二人組が突然現れる。
彼らは、未来でミケランジェロなどと肩を並べることになる巨匠の絵を、
来るべき災害から守りに来たという。
しかも、その巨匠とはこの女性で……
イメージがなんか「笑う犬」とかに出てきた二人組コントみたいな感じ。
未来人が現れるシーンで、いちいち「スタートレックは見たことあるでしょ」と表現するのがポイント。
・『英国航行中』
突然、動き始めたイギリスと孤独な生活をしている紳士の物語。
・『ふたりジャネット』
ある日、田舎の母や親友から、
アメリカ中の有名作家が引っ越してきていると言う電話が来る。
……それだけ。
これは本当にそれだけ。
なんか、本当に奇妙な話。
その出来事もおかしいんだけど、登場人物が主人公以外は気にしてないんだよね。
帯にあるように、そんな馬鹿な、て話
ディッシュはギャグ?
・『冥界飛行士』
盲目の画家があの世にいける装置を使って、その情景を描く物語。
ベルナ−ル・ウエルベルの『タナトノート』とちょっと似てるかも。
でも、あちらがファンタジーだったのに対して、
こちらはSFっぽいかな。
・『穴のなかの穴』
・『宇宙のはずれ』
・『時間どおりに教会へ』
上の3作は万能中国人ウィルスン・ウー・シリーズ。
ユークリッド的なんちゃらでアメリカの廃車場と月面が穴で繋がってしまったり、
反エントロピー的なんとかで、現象が逆転し始めたり、
古い白黒テレビから時間が漏出してしまったり、
てな現象を見事(?)な数式で解き明かし、解決するシリーズ。
なんと言っても、ウーが魅力的。
パリでパンの修行をして、
ブロンクスで物理学、プリンストンで数学を修め、
どこかの法律学校に通い、台湾で漢方を学び、
隊商学校に行き、NASAの仕事もしていた、という長身の中国人。
京極堂に通じるものがあるかな。
得体の知れない数式を書いて、「こういうわけだ」といって見せるのがたまらない。
極めて私的な感想だけど、
なをさんの漫画で意味もなく顔が伸び続けるコマとか、
『カールビンソン』を字で読んでいる感覚かも。
ウー三部三部作が一冊にまとまるのは世界初だそうだ。
『90年代SF傑作選〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)』に入ってる『マックたち』もオススメ。
後書き読んでて、『ディスクワールド』の話がなんで出こないんだろ、
と最後まで思ってたのは内緒だ。
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