THE MASCOT

マスコット―ナチス突撃兵になったユダヤ少年の物語

マスコット―ナチス突撃兵になったユダヤ少年の物語

5歳のユダヤ人の少年は出生の秘密を隠してどうして生き延びることができたのか―幼い主人公は虐殺を逃れてひとり森をさまよって、ある日、軍隊に捕らえられる。殺される代わりに、兵士らのマスコットとされる。バルト3国のラトビアはドイツの支配下にあった。少年兵は新聞にも映画にも出て、ナチスの宣伝に利用された。しかし、大人になって記憶はあいまいだ。自分はだれか?50年後にこの秘密を息子に知らせ、父子で過去の謎解きに向かう。ついに、母親と弟の殺された現場に立った。第2次世界大戦中の衝撃的な実話。

まず、ナチスのミニチュア版のような少年の写真に強烈な衝撃を受ける。
さらに彼はユダヤ人で、マスコットとして活動していたという。
しかも、すべて事実だというのだ。


出版直後から、捏造やユダヤ人ではないといった批判もあったそうだけど、事の真偽は置いても歴史読みものとして、非常に面白い。


冬のロシアの森で、幼い少年が生き延びられるのか?
彼が目撃した虐殺はどこなのか?
ユダヤ人の少年が何故ナチスのマスコットになったのか?
たった二つだけ記憶している「コイダノフ」「パノク」とはなんなのか?
彼の生まれ故郷は見つかるのか?


そもそも、主人公アレックスは幼い頃の記憶は曖昧で、しかも、ホロコースト生存者に見られる、自分が生き残ってしまったという罪悪感からくる誤記憶症候群なのかもしれない。さらに彼の経験が本当だとしても、ドイツの司令官から何度も作られたプロフィールを暗唱させられ、記憶が上書きされている可能性がある。このように、信用出来ない語り手として、かなり手強い。


二次大戦概観では目立たないラトビアだけど、無論そこに視点を置けば、ナチスとロシアの間で翻弄されたラトビアの歴史が目の前に広がる。また、プレ・ホロコーストと呼べるようなナチスによる大量虐殺など、有名ではないが決して無視できない史実も少年の記憶を通して語られる。
一方で、ラトビア人社会や戦犯狩りのユダヤ人などの陰謀めいた動きが彼らに迫ってくる。


これらのノンフィクションなのに信用出来ない語り手という要素と、あまり知られていない歴史の記述とが乖離しておらず、矛盾した記憶と歴史は合致するのか、それが歴史ミステリーとしての推進力になっている。そして、そのミステリーは主人公のアイデンティティにつながっていく。


彼の幼い記憶では、故郷の村はナチスによって絶滅された。
その彼が、ナチスのマスコットになるだけでグロテスクなんだけど、誤送されるユダヤ人たちにプロパガンダとしてチョコレートを配るシーンは、もはや質の悪いブラックジョーク。
その地位ゆえに彼は生き延びるんだけど、一生それを悩み続ける。
信じがたい人生。
だからこそ、後半の展開に魂が震える。
まだまだ、語られていない事実はありそうなんだけど、それはもう秘したままでいいんじゃないかなぁ。


オススメ。

Les Contes de la nuit

『夜のとばりの物語』鑑賞



物語は普通に昔話、民話風で特筆すべき点はない。


しかし、映像面は非常に美しい。
特に、3Dは素晴らしく、影絵のように平面的なのに、そこに奥行きがしっかりと存在している。影絵でだからこそ、幾つものレイヤーを重ねた奥行きに意味があり、黒の重なりなのに、前後がわかるのが見事。
出来れば、3Dで観て欲しい作品。


それにしても、XPANDはやめて欲しいよな。
W眼鏡だとフィット感が激悪だし、フィットしたところで重いから疲れるんだよなぁ。

天使のゲーム (上) (集英社文庫)

天使のゲーム (上) (集英社文庫)

天使のゲーム (下) (集英社文庫)

天使のゲーム (下) (集英社文庫)